陰陽五行説は、中国医学の最古典である『黄帝内経素問』にも記されており、
今日でも中国医薬学の理論の基礎であり、病気の治療、健康管理、調剤、調理の原則など、
生理学、病理学の上からも役立つ先賢の知恵が網羅されています。
『素問』によれば、「陰は寒、水、下、右、腹、裏、内であり、陽は熱、火、上、左、背、表、外である」とあり、
いわゆる相対的な二元論が展開されています。
陰陽のバランスが崩れたときには、それを是正する反対の薬性、食性をもつ薬物もしくは食物で中和正常化しようとする考え方です。
原則として、陰には軟、濡の作用のある鹹、辛、温の薬食を用い、陽には清涼、堅硬の作用のある苦、寒の薬食を配合します。
薬物にも食物にも性味があり、これを五つに分類しています。
この五味(五つの味)と五性(五つの性質)は、薬の処方や薬膳の基本となるものです。
五味五性の効用は下記表の通りです。
薬膳はこれらの性味を持った薬・食をバランスよく配合することによって、健康を維持、増進、老化を防ごうという考え方からできた料理です。
この原則は大変厳密で、料理でも漢方処方でも、これらの組み合わせを正しく用いれば効果がありますが、
誤るとかえって害の作用があらわれます。
東洋的食養では、五行に基づいて、食材や薬草を分類します。
例えば、木気に属する肝を傷めた場合、同気の薬性の酸や、木気を生扶する土気に相当する薬草や食物を中心に補い、
かつ過不足がないよう摂取させます。
この過不足も大切な要素で、よくテレビや雑誌、ネット情報などで、一面しか捉えずに摂取すると逆効果になることが多いのです。
例えば、酸味の梅干やレモンを連日大量に摂り続けると、やがて、木剋土(木は土を破る)の作用で、
胃を傷め、肝そのものも却って疲弊してくるものです。
これでは、タタリです。
薬膳料理の秘訣は「酸と甘、苦と辛、甘と鹹、辛と酸、鹹と苦」というように、相克する二味を組み合わせる原則があり、
相互の味を中和しておいしく食べられるようにするのが料理、ことに薬膳の秘訣です。
気 | 味 | 性質 |
木 | 酸 (酸っぱい味で、収飲作用があり、 肝、胆、目によい) |
寒 (体を冷やし、鎮静、消炎作用があり、 のぼせ症で血圧の高い人によい) |
火 | 苦 (苦い味で、消炎と堅固の作用があり、 心臓によい) |
熱 (体を温め、興奮作用があり、 貧血、冷え性の人によい) |
土 | 甘 (甘い味で、緩和と滋養強壮作用があり、 脾、胃によい) |
温 (熱よりやや作用が弱い) |
金 | 辛 (辛い味で、発散作用があり、 肺、鼻、大腸によい) |
涼 (寒よりやや作用が弱い) |
水 | 鹹 (塩からい味で、和らげる作用があり、 腎、膀胱、耳、骨によい) |
平 (寒熱のひずみがなく、日常飲食するもので、 常用すれば滋養強壮作用がある) |