日本では昔から「春の木の芽どきは、おかしくなる人が多い」と言われています。
実は、これは科学的にも事実なのですよ。
卒業や進学、入学や入社など、新しいことが始まっていくことに対する不安や、
降ったり止んだりの天候不順、菜種梅雨の鬱陶しさ、
陽気が高まるにつれて心の活動が活発になっていくことなどが、その要因かもしれませんね。
しかし、「木の芽どき」は日本だけのことではないのです。
季節とうつ病との関係は医学の祖ヒポクラテスやソクラテスの残した言葉の中にも触れられていました。
今世紀に入ってからは、WHOの調査で、うつ病の季節変動が系統的に研究されるようになりました。
国が違っても、確かに月でいえば3月・4月・5月 季節では春に発病や入院が多いのです。
それとともに9月・10月 秋が多いことも目を引きます。
「枯れ葉どき」もまた、あぶないのです。
わが国では、最近、山梨医大のグループが発表した調査があります。
イミプラミンという抗うつ剤の使用量が季節によってどう変動するか、
6年間にわたって調べたもので、やはり秋(9月・10月・11月)が最も多かったのです。
そして、このような季節的な変動を対象とした研究は、
近年はむしろ「枯れ葉どき」を主要なターゲットとして選んでいます。
医学にとって重要なのは予防です。
精神、神経系の病気、あるいは病気というほど深刻でなくても好不調の波に、
リズムの異常が関係し、それが特定の季節に悪化する、
ということであれば、それを承知して事前の手を打ちたいものですね。
季節性感情障害と睡眠、覚醒リズム障害は、
共に生態リズムの異常が関係していると云われています。
特に後者では、体温、ホルモン分泌など、
生態が持つ各種の日周リズムを同調させることが、予防につながるのです。
季節性感情障害も同様にリズムの同調障害だと考えると、同じ予防法が有効です。
現在の時間生物学の知識を応用すると、日常生活における「リズム障害予防法4原則」が提唱されます。
1. 規則正しい生活
2. 午前中の日光浴
3. 午前中の運動
4. 朝食を欠かさない
「1」については説明には及ぶまいが、あまり規則正しい生活も味気ないものです。
「2」から「4」は、いずれも生態リズムの同調因子として重要なものなのです。
「現実的でない」などと簡単に諦めず、
「バナナ1本と牛乳だけでもよいから朝食を食べ、
朝の光を浴びながら、少し先の停留所まで速めに歩いてから通勤のバスに乗る」など、
できることから工夫をしてはどうでしょう。
また、日常生活で何か興味、関心の対象を持ったり、
充実感を抱いたりすると、睡眠やリズムに好ましい影響が与えられます。
つまり、張りのある生活をする、ということで、これを5項目に加えることもできますね。
5. 励みと弾みある生活
生活に緩急のリズムをつけて、活き活き生きるライフを構築しましょう。
人は人間(じんかん)に生きる存在。
人間関係も活用して、気を養い、気を安らげたいものですね。