俗に言う「疲れ目」は,眼科的には2種類に分類されています。
休憩によって回復するのが「眼疲労」つまり「疲れ目」。
休憩をとっても目の痛みや霞(かすみ),頭痛などの症状が残るのを「眼精疲労」と言っています。
眼精疲労の主な自覚症状は、目に関するものとして、疲れによる充血、かすみや視力の低下などが挙げられます。
また目以外でも、身体の痛み、胃痛や食欲不振、便秘などが起こることがあります。
さらに進行すると、イライラや不安感、抑うつといった症状へ発展することもあります。
中医学では、目は五根(他に鼻耳舌唇)の一つで、五行の木気、五臓の肝に属します。
黄帝内経には、「肝は血を受けてよく視る」という言葉があります。
肝は血液を貯蔵する役割をもち、この肝に充分に血液が蓄えられていれば目が正常に機能できるのです。
目と肝の関係から眼精疲労を考えると、2つのタイプに分類されます。
1.肝の血液が不足する「肝血虚」タイプ
肝の血液が不足すると目がショボショボしたり、乾いたり、かすんだりしてくることになります。
このような状態を「肝血虚」といいます。
特に女性は、月経があるため血液を失いやすい体といえます。^^;
肝の血液が不足している女性は、特に生理期に目の乾燥やかすみなどの症状が強くなる傾向が働きます。
このタイプには、血液を増やす婦宝当帰膠や、目に良いといわれる枸杞子・菊花の入った杞菊地黄丸が処方されることが多いです。
2.肝の気の流れが滞る「肝気鬱結」タイプ
中医学では、感情も、臓器と密接に関わっていると考えています。
肝は、五情(怒喜思悲恐)の「怒」です。
イライラしたり、怒りをもったりすると、ストレスが溜まって、肝は正常に働くことができなくなります。
そうすると、目に肝からの気(エネルギー)が行きわたらなくなって、乾燥やかすみが出てくるのです。
この場合は、気の流れが滞ることが原因で「肝気鬱結」といいます。
情緒の変動や緊張により、目がかすみ、
イライラ・憂鬱・ヒステリックな反応・胸脇部が張って苦しい・ため息がよく出るなどの症状を伴います。
このタイプの人は、首から肩に沿って、両方に凝りが見られることが多いのですよ。
このタイプには、気の流れをスムーズにする逍遙丸や加味逍遙散、四逆散が処方されます。
かすみ目や視力減退のことを中国では「目昏(もくこん)」とか「眼花(がんか)」といいますが、
中医学では、目は「目晴」といい、ひとつの器官でもあり、肝以外の五臓とも密接な繋がりがあると捉えています。
ちょっと専門的(マニアックかも?^^;)になりますが・・・
黄帝内経の「霊枢」には、「五臓の中に蓄えられている精気はすべて、経絡をつたって目に注ぎ、
精気の力によって物をよく見ることができる。」と記載されています。
物がよく見えるということは、五臓の精気の有無に深く関係しているのです。
つまり、眼精疲労にもさまざまな原因やタイプがあり、単なる眼精疲労でなく、根が深いものがあるので、
目だけに着目せず、全体を良くすることが、漢方・中医学の考え方なのです。
他の原因による眼精疲労を挙げてみましょう。
3.「心肝血虚」タイプ
肝血虚が続くと、母なる肝の子にあたる心も血虚(血の不足)が及びます。
不安感を伴い、気持ちが落ち着かず、眠れない・物忘れが増えた・悲しい気持ちになりやすいなどの症状が出ます。
心労・過労・出産・慢性病などによる血の不足によって起こるのですが、
特徴は、目のかすみ・視力減退・目の乾燥感・焦燥感・不眠・顔色につやがないなどが挙げられます。
処方では、四物湯合天王補心丸あるいは、人参養栄湯と六味丸の併用が効果的と云われています。
4.「肝腎陰虚」タイプ
肝血虚が続くと、肝の母にあたる腎精も傷つけられ消耗させられるようになります。
また、逆に、慢性病や老化、度を越した性生活(爆)によって、腎精が消耗されると、
母なる腎の子にあたる肝の血や津液(水)も不足するようになります。
ものがぼやけて見え、目の異物感や、かゆみ・充血が生じ、光をまぶしく感じます。
何でもないのに涙が流れたり、風に当たると熱いといった症状を伴います。
掌や足の裏、および胸中に熱感を伴うことが多いです。
例えば肝腎を強化する漢方薬としては、「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」が有名です。
杞菊地黄丸は「飲む目薬」ともいわれます。
また「天眼(てんえん)」という漢方薬は肝腎を強化する薬草にルテイン、ブルーベリーなどを配合しており、
眼の疾患全般に効果的と云われています。
充血や熱を伴う度合いが強ければ、熱を冷ます効果もある知柏地黄色丸(ちはくじおうがん)が効果的です。
5. 「脾虚気陥」(脾気虚)タイプ
脾気の不足により気(エネルギー)を巡らすことのできない状態になり、
めまい、ふらつき、目や耳がはっきりしない状態となることがあります。
自律神経失調症と診断されたふらつきの症状や、鬱的な症状を伴うことがよくあります。
食欲不振を伴い、疲れを覚え、まぶたに力が入らない、
注視するとすぐに疲れたり、かすみが増強する特徴があります。
元気がない・話すのがおっくう・食べたくない・泥状便などの症状を伴います。
このタイプには、補中益気湯や六君子湯が効果的とされます。
6.「腎陽虚」タイプ
腎陽の気は、腎精をもとにつくられ、身体を温め養う熱エネルギーの根源です。
水分を蒸気のようにつくり変えて、身体に必要な水分を肺を通じて全身に行き渡させると同時に、
不必要な水分を膀胱を通じて体外に排泄し、全身の水分代謝の働きをしています。
腎が弱り、腎陽の気が不足すると、水分代謝が損なわれ、水のむくみが生じます。
このタイプは、元気や精気がなくなり、目が疲れ、特に夜になると暗く感じて、視力が低下します。
普段から寒がりで、温かい飲み物を好み、夜間しばしば尿意をもよおします。
手足の冷えやむくみ、頭のふらつき、めまいを伴い、腰や膝に力が入らず、腰背部がだるくて、疼くこともあります。
老化で片付けられてしまうものも、このタイプです。
この処方には、八味地黄丸や牛車腎気丸が効果的です。
7.風痰上擾タイプ
食生活の偏り、主にコレステロールの過多の人がわずらいやすい症状で、
「肝陽が亢じると風痰を生じ清竅を乱す。」と記載されています。
「風は動揺振転の性質がある」ので、けいれんやひきつりを起こします。
舌がもつれたりして、うまく話せないという予兆が生じます。
さらに進むと、卒中や中風を起こす怖れもあります。
目がかすんで、めまいがする・頭が重い・まぶたがけいれんする・胸苦しい・吐き気がする、
などの症状をともなうこともあります。
このタイプには、よく「半夏白天麻湯(はんげはくてんまとう)」が処方されます。
では、食の観点から、眼精疲労に対する予防や回復の手立てを考えてみましょう。
「肝腎同源」といわれるように腎は肝をバックアップしていると考えられています。
ゆえに、眼精疲労を改善するためには、肝腎を強化することが最も大切な手段となります。
肝腎を強化する食品には、クコ(漢方薬局にもあるよ。)、桑の実、ブルーベリー、蟹、海老、イカ、牡蠣(カキ)、貝柱などです。
このうち、海のものは、身体を冷やしたり、消化がよくないものもありますので、
脾胃を温め強化するショウガなどを用いることをお勧めします。
ふむ。一品、レシピをしたためてみましょうか?
<揚げ豆腐の五色餡かけ>
材料:(2人分)
木綿豆腐:1丁
無頭エビ:50g
干しシイタケ:1枚
ニンジン:30g
インゲン:20g
a(だし汁:1カップ、しょうゆ・酢:各大1、塩:小4分の1、砂糖:小2)
おろしショウガ:小3分の2片
水溶きかたくり粉・かたくり粉・揚げ油: 適当な分量^^
作り方;
(1)豆腐は3cm角に切り、水気をよくきり、かたくり粉をつけて油で揚げる。
(2)エビは背わたをとって粗みじん切りのし、水でもどしたシイタケとニンジンはせん切りにする。
(3)鍋にaとシイタケ、ニンジンを入れて煮る。
(4)次にエビと3cmの長さに切ったインゲンを加える。
(5)水溶きかたくり粉でとろみをつけ、味をみて調える。
(6)器に揚げた豆腐を盛り、できた餡をかけておろしショウガをのせる。
陰陽五行の調和も取れ、肝腎胃の強化もバッチリかと?(笑)
あなたも、どうぞ、家庭薬膳として、美味しくて効く料理を考案して下さい。
これで、あなたも、明代で滅んでしまった食医として現代に復活!(笑)